Windows Server 2016 では Nano Server と呼ばれる、軽量化されたOSが含まれています。Windows Server 2016 をベースに新しいアプリケーションやインフラストラクチャーを対象に、そのための機能に研ぎ澄ましたもので、稼働させるだけなら数百MB程度のメモリとディスクがあれば動きます。
Windows Server 2016 そのものも 512MB が最低必要量になってますが、インストール時には 800MB 程度、デスクトップエクスペリエンスを備えるならやはり 2GBが必要となります。ストレージ容量なら32GBが最低容量となります。
一方、Nano Server は「研ぎ澄まされ」ているため、用途としては不適となります。たとえばローカルコンソールで操作できることは本当に最低限のため、リモート管理が必須となります。役割や機能もフルインストールの Winodows Server がサポートするものが全てサポートされるわけではありません。ライセンスから見ても、アップデートがCBBモデルなのもありSAが必須となります。
こうしたことから、インストーラーでぽんとインストールできるわけではありません。
Windows Server 2016 のインストーラーでは、デフォルトのの Server Core か、 デスクトップエクスペリエンス付きかの選択肢しかない |
むしろ、インストールしてから用途に向けてセットアップしていくのではなく、コマンドラインで
「必要な機能を組み込んでいく」必要があります。
インストール手順自体はこちらにありますが、少々敷居の高いものとなっています。
では、VMware の仮想マシン上にインストールするにはどうすればいいでしょうか? ちょっと試してみました。
● EFI か、BIOSか?
まず最初に決めるべき事は、ファームウェアを従来のPC-BIOSか、UEFIにするかです。PC-BIOSはこれまで使われてきたファームウェアで、リアルモードで動作するものになります。UEFI はより新しいファームウェアで、ブート前の状態でより多くの機能を提供できるものです。
Nano Server をインストールするにはどちらでも構いません。多くの VMware 製品は普通に仮想マシンを作ると PC-BIOS を設定します。VMware Fusion については macOS をゲストOSにしない限り、EFI は選択されません。(ユーザーインターフェイスから設定できない。ただし vmx ファイルを直接書き換えることで設定可能)
ここでは、最初に BIOS でのインストールを、次に EFI でのインストールを試してみます。
● Nano Server のインストール (BIOS編)
まず、仮想マシンを作成する。特に普通に作れば良い。今回はメモリは 1GB程度にしました。仮想ディスクのサイズも1GB以上ならば問題ありません。
ESXi の仮想マシンのプロパティ 「リソース」の「起動オプション」にてファームウェアの指定が可能 |
注意点としては、ゲストOSとしては「Windows Server 2016(64bit)」を選択すると言うことぐらいです。
仮想マシンの作成画面より OSは Windows Server 2016 (64bit) にする |
できあがった仮想マシンに Windows Server 2016 のインストールメディアを認識させ、こちらから起動します。
Windows Server 2016 のインストールメディアから起動 通常はここでキーボードや言語の選択を行いウィザードを進めるが Nano Server の場合はここで一旦停止 |
この画面が表示されたところで「SHIFT+F10」をおす。すると、コマンドプロンプトウィンドウが開きます。
Windows Server のインストールメディアでは、SHIFT-F10 でコマンドプロンプトウィンドウが開く ここでは、D: ドライブの内容を dir で確認している |
デフォルトの状態では、X:ドライブに一時的な起動ドライブが作成されております。インストールメディア自体はD:ドライブにマウントされており、初期状態では仮想ディスクはフォーマットもされていないため、どこにもマウントされていません。
D:\NanoServer フォルダ以下に、Nano Server の素の状態のイメージ(NanoServer.wim) と、デバイスドライバや役割、機能を備えたパッケージ(*.pkg)があります。
さて、ここからインストールを行います。インストールで行わなければならないことは、以下の4つです。
- ディスクのパーティション作成と、フォーマット
- Nano Server イメージの展開
- その他必要なパッケージのインストール
- 起動パーティションとして指定
・パーティションの作成
パーティションの作成とフォーマットは diskpart コマンドで実施します。まず、「diskpart」と入力し実行して、diskpart コマンドを起動します。このとき、「DISKPART>」のプロンプトが出ずハングする場合があります。その時は Ctrl-C をおして diskpart コマンドを終了し、しばらく待ってから再度実行するとプロンプトが出てきます。diskpart コマンドを実行 |
DISKPART> のプロンプトが出たら、以下のコマンドを実行します。
- select disk 0
- create partition primary
- format quick fs=ntfs label="nano server"
- assign letter=c
- active
次の create partition で選択されたドライブに新しいパーティションを作ります。このとき、 primary を指定することでMBR のプライマリパーティションとしてパーティションが作成されます。
(MBRでは、そのままだと最大4つのパーティションしか作成できない。これらを「プライマリパーティション」と呼ぶ。4つ以上パーティションが必要な場合は、そのうちどれかを入れ子にして、別途パーティションテーブルを作成、分割する。この入れ子で作成されるパーティションを「論理パーティション」と呼ぶ )
上記コマンドに従い、パーティションを作成、フォーマットを実行 |
assign letter=c で、このパーティションを「C」ドライブと名付けます。名付けた時点で C: でアクセスが可能になります。
最後が重要です、active を実行することで、MBRに「このパーティションから起動する」という指名をします。この操作をしていないと、起動パーティションが分からずブートに失敗しますので注意してください。
起動パーティションを指定 list partition で先頭に*があるのがそれだ |
終わったら、DISKPART> のプロンプトで exit を入力する、もしくは Ctrl-C で終了できます。
・Nano Server イメージの展開
空のC:ができたところで、ここにOSのイメージを流し込みます。まず、カレントディレクトリを d:\NanoServer に移動しておきます。
ここで、以下コマンドを実行します。少々長いので打ち間違いに気をつけてください。
- dism /apply-image /imagefile:.\NanoServer.wim /index:1 /applydir:c:\
dism コマンドでWIMイメージを展開 |
dism.exe は WindowsVista から用意された、Windows の展開イメージの管理コマンドです。インストーラーが使用する WIM形式のイメージや仮想ディスクイメージである VHD/VHDX形式、それからディスクに展開された Windows のシステムを管理することができます。
ここでは、imagefile で指定した WIM形式のイメージを applydir で指定したパスに書き出しています。/index:1 は、WIMイメージの2つめのボリュームを対象にしていることを指します。このWIMイメージの中にはEFIシステムパーティションがあるので、C: に相当するのは二つ目の(0オリジンで1の)ボリュームだからです。
dir c: とかすると、Program Files や WINDOWS など、おなじみのフォルダが展開されているのが分かります。
・その他必要なパッケージのインストール
このままでは Nano Server そのものしかインストールされておらず、起動する以上の意味を持ちません。追加のデバイスドライバや役割、機能をここでインストールします。CABパッケージの追加インストールには、dism /add-package を使用します。
パッケージは d:\NanoServer\Packages フォルダの下に格納されております。
ここでは、d:\NanoServer\Packages フォルダにカレントディレクトリを移動させた後、Microsoft-NanoServer-OEM-Drivers-Package.cab を追加しています。
- dism /add-package /packagepath:.\Microsoft-NanoServer-OEM-Drivers-Package.cab /image:c:\
add-package ではインストール先の「システムイメージ」を指定しますが、ここでは c:\ 以下に展開されたイメージが対象のため、c:\ としています。
パッケージを追加 警告が気になる場合は、2GB以上のディスクを用意する事 |
ここではディスク容量が小さく作業領域(ScratchDir)が小さいせいで警告が出ています。確かに、今回ディスクサイズを1GBにしたので、イメージを展開した分容量が取られており、空き領域が 1GBを切っています。仮想マシンのディスクサイズをそもそも2GB程度にすればこの警告は生じませんし、今回のように強行しても、1個ぐらいのパッケージなら問題なく展開できたりもします。
VMware 上の仮想マシンの場合、この Microsoft-NanoServer-OEM-Drivers-Package.cab は必ず入れてください。この中に LSI Logic の SCSIドライバなども含まれているため、このパッケージを追加しないと、OS起動後に C:ドライブをマウントできず、BSODになります。
その他の役割については、こちらのページを参照してほしい。「Creating a custom Nano Server image」の項目にある表が、概ね機能と対応するパッケージになります。厳密にはこの表は、事前にパッケージを組み込んだ NanoServer.wim を作るために使用する New-NanoServerImage コマンドレットの引数になってますが、たとえば Hyper-V の役割をインストールするための「-Compute」なら、「Microsoft-nanoServer-Compute-Package.cab」とか類推がつくかと思います。
また、c:\NanoServer\Packages フォルダの直下だけではなく、言語ごとのフォルダもあります。日本語の場合、c:\NanoServer\Packages\ja-jp というフォルダがあり、同名のパッケージがあるのでこちらもインストールしておいてください。
(ただし、NanoServer のコンソール画面は英語しか表示できないため、ローカルコンソールでの日本語関係は化けてしまいます。)
・起動パーティションとして指定
さて、最後に起動パーティションとして指定します。これは、bcdboot コマンドを使用します。- bcdboot c:\Windows /s c:
bcdboot でブートローダーの設定を作成 |
bcdboot.exe もまた WindowsVista から導入されたコマンドで、winload によるOS起動を制御します。ここでは、c:\Windows から Windows を起動することを指定しています。その設定は c: に、つまり同じドライブに書き込まれます。
実のところ、これはちょっとした手抜きです。Windows をGUIからインストールした場合は PC-BIOS の場合も先頭に100MB程度のシステムパーティションが作成され、こちらに OS起動の設定が書き込まれます。UEFIの場合、EFIシステムパーティションが必須であり、こちらで認識する必要があるから別パーティションを用意する必要はあります。
一方、PC-BIOS の場合はその必要性はさしてないですし、仮想マシンの場合固定したOSを固定したパーティションから起動する、せいぜい起動オプションを変えたモードを用意するぐらいですので、これでも問題ない、という判断からです。
なお、Microsoft のページでも、「不要なら削除して構わない」となってます。
気になる方はシステムパーティションを作成し、/s の指定先をそちらにした方が良いでしょう。
bcdboot で設定が正しく書き込まれたかは、bcdedit コマンドで確認できます。
- bcdedit /store c:\Boot\BCD
bcdedit コマンドでブートローダーの設定を確認 bcdedit 単体で実行すると、現在起動したOS(この場合はX:)の設定を表示するため、 ここでは /store でどこにある設定を読み込むかを指定している |
Windows ブートマネージャー の項目が、ブートマネージャーそのものの設定、たとえば表示言語(ここではen-us)などが表示されます。ブートマネージャーの default に表示されている Identifier の項目が起動時に使われます。また、次の displayorder に複数の Identifier が表示されている場合、この順でメニュー表示され、どの設定から起動するかを選択することができます。メニューを表示して何秒待ったら起動するかは、timeout に設定されます。
ここでは {default} という Identifier の設定が一つだけ、 Windowsブートローダーの項目に表示されています。
詳細な内容については、こちらのページもあわせてご参照ください。
さて、これで準備は終わりました。コマンドプロンプトウィンドウを閉じて、下のインストーラーのパネルを閉じる事で再起動されます。または、コマンドプロンプトウィンドウから「wpeutil reboot」コマンドを実行する事でも再起動が行われます。
再起動後、HDDから起動が行われ、Nano Server が起動してきます。
Nano Server 起動中
ブートローダーはフルインストールと同じためここだけはグラフィカルだ
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Nano Server 起動。 本当に何のUIもなく真っ黒だった 以前のTPと異なり、 TP5やリリース版では最低限のUIはついた。本当に最低限だが |
初期状態では Administrator にパスワードが入っていませんので、ユーザ名に Administrator を指定してリターンをたたくと、初期パスワードを入力を要求されます。
ここで Administratror のパスワードを設定 |
DHCPから採取された IPアドレスなどは画面に表示されるので、あとはRSATを使って管理する、または SMTを使って管理するなどで、Nano Server を扱うことができます。
( Azure 管理コンソールで Windows Server もまとめて管理できる SMT は、マイブームだったり(笑) )
Networking を選択、リターンを押すとIPアドレスの設定が確認できる
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● EFI の場合は?
PC-BIOS と EFI で異なるのは、ブートの手順になります。
BIOSの場合は、MBR に記載されたシンプルな一次ブートローダーがアクティブに指定されたパーティションの二次ブートローダー、つまりは winload を呼び出し、winload が bcdboot で記入した設定を読み込み、ブートします。MBR に入れることができるブートローダーはリアルモードかつ容量も限られているので、winload そのものを入れるのではなく、二段構えになっています。
EFI の場合は、 EFI システムパーティションに組み込まれたブートローダーがOSを起動します。Windows の場合は EFI に winload が存在し、これが Windows を起動します。EFIシステムパーティションは100MBないしそれ以上あり、EFIがブートローダーに提供する機能も BIOS に比べ張るかに高機能なことから、winload が直接利用できるわけです。
このことから、二つの部分がかわってきます。
一つはパーティションの作成。GPTパーティション形式にした上で、EFIシステムパーティションを用意する必要が出てきます。
二つ目は、bcdboot での指定。BIOSの場合は winload も bcdboot の設定も c: にごっちゃに入れてましたが、EFI の場合は /s で指定する格納先は EFIシステムパーティションになります。
では、手順を見てみましょう。
最初に重要なのは、仮想マシンを作成したら「ファームウェアをEFIにしておく」事です。ゲストOSの設定にもよりますが、Windows Server 2016(64bit)を選択してもデフォルトはBIOSになってます。
仮想マシンのプロパティの「オプション」「起動オプション」で ファームウェアをEFI にして、OKを押す |
Windows Server 2016 のインストールメディアから起動 ここからコマンドプロンプトウィンドウを出すところは同じ |
実行する DISKPART のコマンドが少し変わって、以下になります。
- select disk 0
- convert gpt
- create partitoin efi size=100
- format quick fs=fat32 label="System"
- assign letter=s
- create partition msr size=128
- create partition primary
- format quick fs=ntfs label="nano server"
- assign letter=c
select disk0 で1本しか繋いでいない仮想ディスクを選択するところまでは一緒です。
次の convert gpt でパーティションの記録形式をデフォルトのMBR形式から EFI で使用する GPT パーティション形式にしておきます。
次に、create partiton efi で、EFIシステムパーティションを作成しておきます。GPTパーティション形式では、内部的には UUID でそのパーティションがどういうものかを記録しております。が、一々 長い UUID を入力するのは人間業では辛いので、「efi」というシンボルで EFIシステムパーティションであるというUUIDを入れてもらっている訳です。なお、size=100 は 100MiB のサイズで確保する事をさします。create partition でサイズ無指定だと開いてる所全部、となります。
その後、FAT32形式でフォーマットします。EFIシステムパーティションの実体はFAT32のため、FAT32でフォーマットする次第です。ボリュームラベルは Windows のデフォルトインストーラにあわせて「System」にしています。
また、ここでドライブレター「S」を割り当てております。EFIシステムパーティションはOS起動後はマウントされない、不可視のものですが、ここではBCDの起動設定を入れなければならないので、邪魔にならないところにマウントしている訳です。
EFIシステムパーティションの作成。 なお、EFIシステムパーティションを略してESPと呼ぶこともあります。 |
ともあれ、EFIシステムパーティションの次、C: ドライブとなる Windows パーティションの前に配置することになってます。これはパーティションが存在すれば良く、フォーマットしたり一時的にドライブレターを割り当てて中に何かかき込む必要はありません。
さて、三つ目がプライマリパーティションで、要は Windows をインストールするパーティションです。パーティション作成後、NTFSでフォーマットして、C:をアサインしてます。
なお、BIOSでの起動(MBRパーティション形式)の時と異なり、active でアクティブパーティションを決める必要はありません。EFIは必ず、EFIシステムパーティションを見に行き、そこのブートローダを利用する、どのパーティションから起動するというのはブートローダ側の仕事となっているからです。
続き、MSRとC:ドライブを作成 |
WIMイメージからの展開と、ドライバーなどのパッケージの導入はBIOSの時と同じです。
さて、ブートローダの設定がBIOSの時とはまた変わってきます。
今回、実行するコマンドは以下になります。
- bcdboot c:\Windows /s s:
WIMイメージの展開、パッケージの導入の後、bcdboot で起動ドライブを設定 |
起動するOSとして c:\Windows を指定するところまでは同じです。が、その後、ブートローダの設定をかき込むのは EFIシステムパーティションである s: ドライブになります。
その後の bcdedit での確認も、以下になります。
- bcdedit /store s:\EFI\Microsoft\Boot\
EFIシステムパーティションでのブートローダなどは、ルートのEFIフォルダに格納されます。Windows のブートローダーwinload の設定は EFI\Microsoft\Boot 以下に記載される訳です。これはBIOSの時の\Boot\BCD とパスが違うので注意です。
さて、あとはシャットダウンして再起動するだけで、BIOSの時と同じように起動してきます。
一応、EFIから起動した Nano Server...別にBIOSの時と変わらないのですが。 |
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